必要条件?十分条件?どっちがどっち?ややこしい。 本記事では、「必要」や「十分」と名付けた理由や語感を数学的に明らかにする。 その上で、「必要条件」「十分条件」を日常会話で使いこなす勘所を解説する。

必要条件、十分条件は2つの条件の関係を表す用語

\(P\)を十分条件、\(Q\)を必要条件と呼んだりするのは「\(P\)ならば\(Q\)」が成り立つ時だけである。 十分条件と必要条件という言葉は 含意の成立を前提している。

例えば、「高校生ならば学生」である。 含意が成立している。 なので、「高校生である」は「学生である」の十分条件であり、 「学生である」は「高校生である」の必要条件である。

一方、「地球は丸い ならば 明日は晴れ」の場合、\(P\)と\(Q\)には何の関係もない。 こういう時には、必要条件と十分条件という言葉は使えない。 含意が成立しないからである。

では、「ならば(含意)」が成り立つとはどういうことか。 定義を確認する。

数学の「ならば」の定義

数学における「ならば \(\Rightarrow\)」は2つの真理値 \(P\)、\(Q\) の入力に対して、 1つの真理値を出力する2項演算子だ。

\(P\) と \(Q\) を「命題」とする。 命題とは真か偽かのいずれかとして判断できる文のことだ。

\({1, 2, \dots}\) を自然数というのと同じで、真や偽を「真理値」という。

真理値は2通りある。 よって、\(P\) と \(Q\) の演算は \(2 \times 2 = 4\) 通りある。 以下に \(\Rightarrow\) の入出力の対応表をまとめる。これを真理値表という。

表1.「ならば」の真理値表
\(P\)\(Q\)\(P \Rightarrow Q\)
①真真真
②真偽偽
③偽真真
④偽偽真

これが数学における「ならば」の定義だ。

必要条件と十分条件の命名理由

必要条件、十分条件では、表1.②のような状況は考えない。 \(P \Rightarrow Q\)が成り立たないからだ。

なので表1の①、③、④だけを見ればよい。 このとき、条件\(P\)がもう一方\(Q\)を制約していることが分かる。

いきなりだが、以下のようなクイズがあるとする。

  • \(P\)ならば\(Q\)が成り立つ
  • \(P\)と\(Q\)の一方は真で、もう一方は不明である
  • 不明な方の真理値を当てよ

このとき、\(P\)と\(Q\)のどちらが真だと嬉しいだろうか。

\(P\)が真の時、\(Q\)も真であることが確定する(表1.①)。 \(P\)が真であることさえ分かれば、\(Q\)の真理値を知るのに十分である。

逆に、\(Q\)が真の時は\(P\)の真理値は確定しない(表1.①と③の2通りがあって絞れない)。 \(P\)が真であるためには、\(Q\)も真である必要がある、ということまでしか言えない。

この非対称性が「必要」とか「十分」という語感の核心である。 \(P\)は\(Q\)の十分条件、\(Q\)は\(P\)の必要条件という。

ちなみに、

  • 十分条件を「強い条件」
  • 必要条件を「弱い条件」

ともいう。 十分条件\(P\)は必要条件\(Q\)の真偽を決定する側であり、強い立場にあるからである。

十分条件は必要条件に含まれる

十分条件と必要条件を集合の包含関係のイメージから確認する。

ある対象が条件(命題)を満たすことは、それを満たす対象全てを集めることで表現できる。 例えば、「俺様はモテモテだ」は、全世界のモテ男の集合に「俺様」が属すると言い換えられる。

\(P\)と\(Q\)は同じ主語\(s\)を持つとする。 \(P\)を満たすもの全ての集合を\(P’\)、\(Q\)のそれを\(Q’\)とおく。

このとき、 $$ s \in P’ \Rightarrow s \in Q’ $$

という含意が成り立つ。 十分条件の集合\(P’\)は必要条件の集合\(Q’\)に含まれる。

条件が強いほど、小さな集合となる

条件の強さとは、条件の制約の厳しさを意味する。

例えば、以下は、制約が多く、条件が強くなっていく。

  1. Aさんは日本人である
  2. Aさんはアジア人である
  3. Aさんは地球人である

十分条件は必要条件に含まれる

図1.条件の包含関係

十分条件の方が必要条件よりも超えるべきハードルがたくさんあり、十分条件の集合は必要条件のものよりも小さくなる。

「日本人である」だけで「地球人である」と分かるのに十分である。 「日本人である」ためには少なくとも「地球人である」必要がある。

最強の条件と最弱の条件

では、最強の条件、最弱の条件とはどんなものだろうか。

最強の条件はもはや、それを満たす(真となる)ものが存在しないほどに制約が厳しい条件である。

逆に、最弱の命題は制約が緩すぎて、なんでもOK、すべて正解(真)としてしまう。

つまり、

  • 最強の命題は、常に偽
  • 最弱の命題は、常に真

これを集合で捉えると、

  • 最強の条件を満たす集合は空集合
  • 最弱の条件を満たす集合は議論対象をすべて含んだ集合(普遍集合という)

となる。

数学や日常会話で必要条件・十分条件を使いこなす

以上で、必要条件(弱)・十分条件(強)の命名や語感について確認した。

包含関係というイメージは、数学の問題を解くのに使いやすい。 強弱という視点は、日常会話において、必要条件・十分条件というワードを使いこなす助けとなる。

数学の「論理と集合」の問題 2

適当な数学の問題を確認する。

以下において、\(P\)は\(Q\)の必要or十分条件か、それぞれ答えよ。ただし、xは実数とする。

  1. \(P: x = 3, Q: x^2 - 4x + 3 = 0\)
  2. \(P: x > 0, Q: |x| > 1\)

\(P\)を満たす集合を\(P’\)、\(Q\)を満たす集合を\(Q’\)とおく。

問1は、\(P’ = \{3\}, Q’ = \{1, 3\}\)であり、\(P’ \subset Q’ \)。 よって、十分条件。

問2は、 \(P’\)と\(Q’\)の間にはそもそも含意(包含関係)が成り立たない。 よって、十分条件でも必要条件でもない。

日常会話での必要条件・十分条件

この程度の数学の問題を解くためには「含意の左が十分、右が必要」などと暗記すれば 十分 だ。 しかし、それだけでは、日常会話で必要条件か十分条件かをパッと言い分けることができない。

とある日常の発言シーンをこれまで見た語感や強弱のイメージで振り返る。

男: 「俺様が天才であることは、俺様がこの問題を解けることの十分条件だ!」

何を言ってるのだろうか。

まずは、「十分条件」と言ってる以上、「天才」という性質と、 「この問題が解ける(能力を有する)」という性質は無関係なものではなく、含意が成り立つことを主張している。 そして、「天才」の方がより強い条件であり、天才ならば当然その問題は解ける、と言ってる。

この男が自身満々にそう発言している場合、「自分を天才だと確信しており、当然、俺はその問題を解ける」と尊大な態度を取っている。

いや、分かりづらい言い回しである。 ただ、ポイントとしては

  • まず2つの条件間で「ならば(含意)」が成り立っていて、
  • 一方の条件の真偽が、もう一方の真偽を自動的に決める

という観点から見ると、必要条件・十分条件が日常会話で使える。 まあ、普通に「十分」と「必要」という語感に従えば大体合うと思う。

参考

  1. 論理学入門 [三浦 俊彦]
  2. スタディサプリ[必要十分条件]